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バレンタインデー・・・
2006年 02月 05日
「私なんかがついて行っていいの?」
「いいから、いいから!一人じゃちょっと入りづらいんだもん。」 進学で東京に出てきた春、大学に入学した友達に連れられて、サークルの見学の付き添いをした。 有名大学の広い構内の片隅にあるあやしげな古めかしい2階建てのサークル棟の2階隅にその部屋はあった。 入ると一人の男性が顔を向けた。 「いらっしゃい。入会希望?」 「はい。」 緊張気味の友達に代わって私が答えた。 「私は違うんですけど、彼女ここの新入生なので、見学の付き添いで来ました。」 「そう。ごめんね、今日は誰も来てなくて。よかったら適当に見てて。」 そう言いながら彼はふわりと私に笑いかけ、私は恋に落ちた。 学生でもないのにそこにたびたび足を運ぶうち、彼に映画でもと誘われ、ドキドキしながら彼について行った。 彼は話し上手で私は彼といると楽しくて仕方なかった。 彼のことは少しずつ分かっていた。 今4年生だが、留年と浪人しているので、24才だということ。 九州の出身だということ。(私は東北だ!) 弟がいること。(私は妹がいる。) 卒業後は資格を取って東京に残って働きたいこと。(よかった。) けれど、私が一番聞きたいことは言ってくれなかった。 ただ話すときの笑顔は、初めて会ったときと同じようにふわりとしていて、私は彼が笑いかけるたびに自分の気持ちを見透かされたようで目をそらしてしまいそうになった。 私はなるべくさりげない様子を装って、2月14日に会う約束を取り付けた。 電話の声からもドキドキしているしていることに気づかれないように・・・と必死だった。 14日になった。空は晴れ渡り、前日の寒さが嘘のようにかなりぽかぽかした陽気だったが、まだ昨日の雪が道に残っていた。 私は外国製の生チョコを手に、待ち合わせ場所へ急いだ。 それは雑誌で見た数量限定の評判のチョコだった。値段も私にしては高く、売っている場所も遠かったが、彼に手渡したい一心で初めてそんなチョコレートを買った。田舎から出てきて、おしゃれな雑誌に載っているものは全部きらきらしてみえた。それを持って行ったら願いが叶う気がした。 バタッ。 彼が立っているのを見つけ、少し小走りになったとき、私は転んでしまった。彼が私に気づいて走ってきた。 「大丈夫?」 「うん・・・。」 一張羅のコートに汚れがつき、手は少しすりむけていた。 「あ!」 気づいてチョコの包みを探すと、紙袋から飛び出たそれは、雪と泥の混じり合ったところに落ちて汚れていた。 慌てて拾い上げても後の祭りだった。 私はすべての願いを失ってしまったかのように涙が出た。 「どうしたの?どこか怪我した?」 彼が心配そうに顔をのぞき込んだ。恥ずかしさに顔を背けながら、私は手にしたチョコを紙袋に戻そうとした。 彼の手が私の手に重なった。 「これ・・・僕に?」 「・・・もういいの。汚くなっちゃったし。」 彼は黙って私の手からチョコの包みを取ると、汚れた包装紙をばりばりと開き、箱を開けてチョコを一つ口に入れた。 「うまい!」 「・・・え?」 顔を上げると彼はすごくおいしそうな顔で二つめのチョコを口に入れた。 「すごくうまいよ、これ。」 道ばたで嬉しそうにチョコを食べ続ける彼に思わず笑ってしまった。 「やっぱり君は笑い顔が可愛い。」 彼はウィンクしてもう一つチョコを食べた。 私は“あなたの笑顔の方が素敵よ・・・”と思いながらも、口から出たのは、 「そんなにおいしいの?」 「食べてみる?」 「うん。」 箱に手を伸ばそうとしたとき、彼の顔が私に近づいた。 それは・・・初めての味だった。 (END) これはあなたのバレンタインストーリー、お待ちしています!に応募した記事です。 あああ~こんなの書いていいのでしょうか!?
by yumi-omma
| 2006-02-05 22:05
| 小説
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