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運命の恋、不器用な愛 第14話
2005年 12月 01日
お読み下さる方は、恐れ入りますが↓を先にご覧の上、第1話からどうぞ。
「運命の恋、不器用な愛」をお読み下さる方へ (痛い・・・。) ユノンは寮の部屋でお腹を押さえてうずくまった。出産予定日は2日過ぎていた。陣痛がついに来たらしい。シナと病院に電話をすると、シナはすぐに駆けつけ、ユノンを病院へ連れて行った。 ユノンの陣痛は順調に進んでいった。だが、いいようのない不安が胸に広がっていた。 「シナ・・・。怖い・・・。」 傍らにいた、シナの手をユノンはつかんだ。 「大丈夫よ、女性はみんな通る道でしょ?私はまだだけど、もう病院だし、先生もまだ産まれないっておっしゃっていたじゃないの。」 シナは一生懸命ユノンを励ました。 「ううん、そうじゃないの・・・。何か変な気持ちがして・・・。」 「気にしすぎよ。初めての出産でナーバスになっちゃっているのよ。」 「・・・ジョンスさん・・・。」 「どうしたの?ユノン。」 ユノンは中空を見つめていた。ユノンのおかしな様子に、シナは少し不安になった。 「ジョンスさん・・・。」 「ジョンスさんはお仕事中よ。どうしたの?写真でも見たいの?」 シナは持ってきた写真を出してやった。ユノンはシナの出した写真を見つめた。そこにはほのかに微笑んでいるジョンスが写っていた。 「ほら、ジョンスさんに笑われるわよ。お腹の子どもにもよ。元気出しなさい!何か飲む?」 「うん・・・。」 ユノンは不安な気持ちを消そうとした。だが、いつもジョンスを案じている気持ちと違い、何か気になるものがあった。しかし、今は出産に意識を集中しなくてはならない。ユノンはお腹に手をやった。また陣痛が襲ってきた。 「おぎゃあ!おぎゃあ!」 分娩室の外に大きな赤ん坊の泣き声が聞こえた。シナがドキドキしながら待っていると、分娩室のドアが開き、中に呼ばれた。 ユノンが小さな赤ん坊の頭をなでながら横になっていた。 「男の子だわ・・・。」 「おめでとう!ユノン・・・。」 シナは感動のあまり涙を流した。ユノンも泣いていた。 その時、分娩室に駆け込んできた女性がいた。 「ユノンさん!」 母だった。 母は、ユノンと赤ん坊を見つめた。その目にはあっという間に涙が溢れていった。 「ユノンさん、よく頑張ったわ・・・。ごめんなさい、初めての時に一緒にいなくて・・・。シナさんに呼んで頂いたの。ごめんなさいね。」 母は泣きながらユノンに言った。 「お母様、ありがとう。来てくださって嬉しい・・・。」 ユノンもまた嬉し涙が溢れた。母は赤ん坊を抱いた。 「ふふ、ユノンさんが生まれた時を思い出すわ・・・。」 ジョンスの怪我はたいしたことがなかった。飛んできた岩石にぶつかり、よけようとした時に腕を痛め、1週間の休業を言い渡された。休業中は補償が出るとはいえ、残業分や休日勤務で稼いでいた分は減収となり、ジョンスは少し焦った。早く現場復帰したかった。 現場は混乱していた。ジョンスは幸い軽い怪我で済んだが、崖崩れの真ん中にいた作業員が3名亡くなり、重傷の者も10名弱いた。そのため人員不足が起き、さらに崖崩れ現場は縁起が悪いということで、作業員が近寄るのを嫌がるようになっていた。大事故だったにも関わらず、大統領選が近いため、新聞沙汰にはならなかったが、工期の遅れと死者が夜現れるなどの噂話、実質的な人員不足などが重なり、現場は荒れた雰囲気になっていた。 ジョンスは怪我で休んでいた時から、一人トレーニングを始めていた。現場復帰した後も、夜の勉強時間を削り、宿舎の周りでトレーニングを続けた。黙々と動いているジョンスを、ダホは奇妙なものでも見るように時々見ていた。 「おい、ジョンス、どうして急にトレーニングなんか始めたんだ。」 ジョンスが復帰して数日後、ダホが夕食中に話しかけてきた。 「ミスを防ごうと思って。」 「ミス?」 「ああ。この間、怪我しただろ?あれは、俺のミスだ。岩石が来たのは見えていたのに、それをよけきれなかったからな。」 「あれはミスじゃないだろう。お前はそれでもマシな方じゃないか。」 「いや、ダメだ。怪我なんかしている暇はないんだよ。」 「それとトレーニングにどういう関係があるんだ。」 「だから、危ない状況になっても、逃げられるようにさ。」 「なるほどなあ。自分の身は自分で守るしかねえからなあ。」 「ああ。」 ジョンスは食べ終わり、片づけようとした。 ダホがぼそっと言った。 「おめえ、そんなに・・・。」 ジョンスはダホの言葉が聞こえなかったのか、そのまま食器を持って返却場所へ向かった。 崖崩れのあった場所の工事が再開されることになった。警察の検分が3日前に終わり、残りの工期を考えると、早く再開しなくてはならない場所だったが、死者が出た場所で働くのを嫌がる作業員が多く、現場は人員確保に苦慮していた。危険をなるべく避けるような手配をし、危険作業手当を増額すると言っても、なかなか人が集まらなかった。 だがジョンスはそれに加わり、数日後、やっと人員が確保され、工事は急ピッチで再開された。 ~1年後~ もうすぐテスの初めての誕生日だった。ユノンは寮の部屋でテスを産んでからの1年を思い出していた。 テスが生まれてから母はユノンの元へたびたび来てくれるようになった。ユノンはテスが3ヶ月になる頃から働きだし、テスは保育園へ預けられたが、熱を出した時などには、母かシナが手伝ってくれた。母はそれ以外にも寮の部屋へ来ては、料理を作ってくれたり、テスの世話をしてくれた。父のことは話さなかったが、母がユノンのところに通っていることを黙認しているようだった。だが、ユノンを家に入れることはまだ許さなかった。 棟梁はテスが生まれるとすぐにお祝いに来てくれた。棟梁はジョンスに連絡すべきだ、と強く言っていたが、ユノンは絶対にやめて欲しいと懇願した。 テスの誕生日祝いは、寮の部屋でシナと母、そして棟梁だけを呼んで、ささやかに行った。誰もが棚の上に飾ってある写真をちらりと見ながら、いない人のことを思った。テスだけが楽しそうに遊び、笑い、初めてのケーキを食べ、疲れてぐずって泣いた。テスが元気に育っていることが、希望だった。 誕生日からしばらくたったある日曜日に、ユノンはテスと遊ぶために出掛けた。寮の近くにも公園はあるが、たまには遠くに足を伸ばそうと思い、テスの好きなバスに乗って、ジョンスと一緒に行った公園に行った。そこにはあの時と同じようにブランコがあった。ちょうど昼ご飯の時間帯だったためか、誰も遊んでいなかった。テスをブランコに乗せ、ゆっくりと押してやると、あの日のジョンスの笑顔を思い出し、ユノンは思わず涙が出そうになった。ほんの少し目をそらした時、テスがブランコから落ちそうになった。ユノンは慌ててテスを抱きとめた。 びっくりして少し泣いたテスの背中をぽんぽんとたたきながら、ユノンは近くのベンチに座ろうとして、振り返った。 一瞬、周りの音が消えた。 ユノンはテスの泣き声がさらに大きくなり、はっと我に返った。少し強くテスを抱きしめていた。 目の前には、ジョンスがいた。 「ただいま。」 ジョンスの低い声がユノンの耳に遠くから響くように聞こえた。 「ユノン、戻ったよ。」 呆然とした表情のまま、ユノンの唇は動かなかった。 ジョンスが近づき、太い親指でユノンの涙を拭った。いつの間にか、ユノンの目から涙が一筋流れていた。 涙を拭かれて、はじめて自分が泣いていることに気がついた。 「お帰りなさい・・・。」 ジョンスは微笑み、ユノンの腕からまだぐずって泣いているテスを抱き上げ、小さな顔を覗き込んだ。 「ごめんな、今まで母さんと二人きりにして。」 テスはジョンスの腕の中で泣き叫んだ。 「おい、そんなに泣くなよ。悪かったよ。」 ジョンスが困ったような顔でテスをあやしたが、テスは嫌がって全身の力を込めてジョンスから逃げようとした。ジョンスは困り果てて、ユノンを見た。本当に情けなさそうなその表情に、ユノンは思わず笑いがこぼれ、ジョンスからテスを受け取った。 「ふふ・・・。人見知りする年頃なの・・・。テス、お父様よ。いつもお話しているでしょう?写真のお顔と一緒でしょう・・・?」 ユノンの目から涙がこぼれ、テスは次第に泣きやんできた。 「ごめん・・・。」 ジョンスはユノンの頭に手を置いた。ユノンは下を向いたまま、首を振った。 「マンマ、マンマ」 テスはお腹がすいたらしく、ぐずりだした。 「お腹すいちゃったね。もうお昼だもんね。」 ユノンは涙を拭き、母の顔になった。ユノンは公園のベンチに座り、テスを隣に座らせ、ジョンスはユノンの隣に座った。 ユノンはバッグからテスと自分のために用意した弁当を出した。 「少ないけど、どうぞ食べて。」 ユノンは自分の分をジョンスに渡し、テスを抱いてテスの分を食べさせた。 ジョンスはユノンの渡した弁当を見つめた。 「どうしたの?食べて。」 「いや・・・。」 ジョンスがトンネル建設に行く前、二人で過ごした時を思い出した。ジョンスが好きだと言った海苔巻が、そのとき作ってくれたのと同じように作ってあった。 「お腹すいてなかった?」 「いや・・・。テスが終わったら二人で食べよう。」 テスは食べ終わり、少し眠たくなってきたようだった。ユノンが抱いていると、安らかな寝息を立て始めた。 ユノンとジョンスは海苔巻を分け合って食べた。 「テスが生まれていたこと、どうして知っていたの・・・?」 「棟梁が・・・。」 「・・・棟梁さんには口止めしていたのに・・・。」 「生まれて3ヶ月くらいたったとき、連絡している様子のないお前にしびれを切らせて棟梁が電報をくれた。だけど俺、そのときは帰らなかった。まだやらなくちゃいけなかったから・・・。この間、テスの誕生日だったんだろ?棟梁がそれに呼ばれたって、また電報を打ってきた。やっと帰れるめどがたち、帰ってきた・・・。遅くなってごめん・・・。不安だっただろ?」 「ううん、私、幸せだった。あなたが一緒にいられない分、テスを残してくれたんだと思ったの。テスと二人でいると、あなたと3人でいるような気がした。テスの手、病院の看護婦さんに『大きな手ですね。』って言われたわ。あなたの手を思い出したわ。だから私、あなたが帰ってくるまで一人でも平気だった。」 「・・・かなわないな・・・。」 「え?」 「ここに来る前、棟梁のところに挨拶に行った。めちゃくちゃ叱られたよ。俺のいない間、お前が何をして、どうやって生きてきたか・・・。お前を愛して、俺がお前を幸せにしたいと思ってた。だけど俺がお前の手の中にいたのかもしれないな。」 ジョンスはユノンの手を取り、微笑んで言った。 「お前のうちへ行こう。」 「ジョンスさん・・・。」 ジョンスはユノンの腕からテスを抱き寄せた。テスはずしりと重かった。 「重いな・・・。これからはお前の細い腕は俺が守らせてくれよ。」 ジョンスは照れたように笑った。ユノンはうつむき、ほんの少し首を下げた。 (最終話へ続く)
by yumi-omma
| 2005-12-01 20:50
| 小説
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