空の蒼さと山の碧と
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皆様、長い間本当にありがとうございました。m(_ _)m  (このブログは閉鎖しています。)遊実
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運命の恋、不器用な愛 第12話
お読み下さる方は、恐れ入りますが↓を先にご覧の上、第1話からどうぞ。
「運命の恋、不器用な愛」をお読み下さる方へ
追記:痛恨のミス!11話で変更するはずのスキンを変更し忘れていました。(涙)
なので、今変更しました。13話のUPは30日とさせて頂きます。m(_ _)m
いっちゃんさん、ごめんなさい。(28日16:50)



次の日からユノンはいつもどおりの様子だった。母はユノンが何日も打ちひしがれた様子を見せたらどうしようかと案じてただけに拍子抜けした気がしたが、母とも父とも明るく話をし、母の手伝いもよくした。ただ、出かけることが多くなった。いつも夕食の準備をする頃には帰ってくるのでさほど心配していなかったが、友人に会うにしても毎日は頻繁すぎる。何がそんなに忙しいのか母は気になってきた。
ある日、夕方5時頃帰ってきて夕食の準備のためにエプロンをつけたユノンを、母は止めた。
「ユノンさん、ここ1ヶ月くらいとても忙しそうだけど、何をしているの?誰かと会っているの?それにかなり日焼けしたみたいだけれど・・・。」
「別にたいしたことしてないわ。時間がたくさんあるから外に出かけたくなったの。あと、たまに外で運動したりしているし。」
「そう。誰とも会っていないの?」
「会う日もあるわ。お母様、何かご用があった?ご用がある日は出かけないようにするわ。」
「いえ、そういうわけじゃないのだけれど。分かったわ。じゃあ夕食の準備を手伝って。」
ユノンはうまくごまかせてほっとした。

「お嬢様、また来なすったね。」
ある2階建て住宅の新築現場で、ユノンは有名人だった。
棟梁が前に仕事をした家のお嬢様であるユノンが、毎日昼間現場に通ってきているのだった。
「今日で1ヶ月です。棟梁さん、そろそろお願いします。」
昼休み、ユノンは棟梁の前で頭を下げた。ユノンはジーンズを履き、長袖のシャツを着ていた。
「お嬢さんがこんなに強情だとは思わなかったですよ。」
棟梁は呆れたように言った。
「でも約束は約束ですよ。」
「分かりました。男に二言はないですよ。」
棟梁は諦めたように言いつつも、ほっとした表情をした。
「実はお嬢さん、うちのかかあが先週入院しちまってね、こっちこそお嬢さんに手伝って欲しいってくらいなんです。」
「え!棟梁さんの奥様が?大丈夫なんですか?」
「いや、たいしたことはないんで。ひざが前から悪くて、ちょっと最近よくないもんだから、いっそのこと手術しようって話になったんですよ。」
「まあ。」
「そういうわけで、うちの経理やら発注やら事務をすべてやってたやつがいなくなっちまったので、お嬢さんに手伝ってもらえると助かります。」
「棟梁さん、ありがとうございます!私、一生懸命覚えますわ。」
「ただ、アルバイト料はわずかしか払えませんが、それでもいいですか。」
「もちろんです。こちらがお願いしたのですから、頂くなんて気が引けます。」
「いえいえ、払いますから。こちらこそよろしく頼みます。」
「よろしくご指導ください。」
ユノンはジョンスが去った日、激しい悲しみに打ちひしがれながらも、ジョンスが戻ってくるまでの間、自分が何をすべきか考えぬいた。
それがジョンスの仕事を手伝えるようにする、ということだった。
ジョンスが去ってすぐに完成したユノン宅から今の新築現場に移った棟梁に、現場の仕事の手伝いや、経理などの裏方の仕事を教えて欲しいと願い出たのだった。いくらジョンスに惚れていたとはいえ、大学出のお嬢さんがそんなことを本気でやるとは思いもせず、棟梁は最初適当にあしらっていた。だが毎日通ってきて、邪魔になりながらも手伝おうとしたり現場の男たちに質問したりする姿を見ているうちに、ユノンが本気でやろうとしている気持ちがわかってきた。そして1ヶ月後もまだやる気があるなら、教えようと申し出てくれたのだった。
ユノンはこれからジョンスの仕事を少しでもわかることができる、と嬉しかった。ジョンスが戻ってきたときには、一緒に仕事出来るように頑張ろうと思った。

ジョンスが行った先は、想像以上に大変なところだった。
朝7時頃から現場に入り、日が落ちる頃まで仕事は続いた。あてがわれた宿舎の部屋はベッドが並んでいるだけの4人部屋で落ち着かない。男たちが起きている間いられるのは、狭い休憩室か食堂、ロビーくらいしかなかった。
ジョンスは夕食時にいつも酒を一滴も飲まず、食後すぐに勉強をしていた。20代から60代の肉体労働をずっとしてきた男ばかりの宿舎で、その姿は異端だった。大抵の男たちは安い焼酎を飲み、タバコを吸い、食事をしたら、横になりながらくだらないテレビ番組や漫画雑誌などを見ているか、賭け花札でもやっているのに、ジョンス一人、教科書とノートを開き、何かを書きつづけていた。最初はそんなジョンスをからかったり冷ややかな目で見ていた周りの男たちも、ハードな仕事の後に、毎日勉強しているジョンスの姿に、時折優しい声を掛けるものも出始めた。だがほとんどは無視していた。
「ジョンス、精が出るな。」
「ああ。」
ジョンスはダホに目を向けずに答えた。ダホはジョンスの横に座り、テーブルにアイスコーヒーを置いた。自分は焼酎のビンを持っていた。
「まあ、少し休んで飲め。」
「どうも。」
ジョンスは鉛筆を置き、コーヒーを飲んだ。
「なんでそんなに毎日勉強しているんだ。」
「高校出てないから。」
「高校出てないやつなんて、ここにはざらにいるぞ。それにこの仕事には学歴はいらねえ。なんでいまさら勉強してるんだ。」
「約束したんだ。」
今まで誰にもまともな返事をしてこなかったジョンスだったが、ダホの問いには思わず答えていた。ダホの純粋な疑問、という声音にのせられたようだった。
「約束?誰と。母ちゃんか?」
「いや、母親はいねえ。」
「もしかしておめえ、女房いるのか。」
「・・・ああ。」
「女房と約束したってのか!」
ダホは驚いて言った。
「何だよ。」
「いや、悪かねえ。女房との約束をきちんと守って勉強するなんざ、変わった男だなあ、お前は。あはははは!」
大声で笑われて、ジョンスはむかついた。
「からかうならあっちへ行けよ。」
「ごめん、ごめん。悪かった。お前をからかおうとなんて思っちゃいねえよ。感心したのさ。・・・じゃあ女房は高卒なのか。」
「いや、大卒だ。」
ジョンスはダホの素直な態度に、うっかり本当のことを言ってしまった。
「大卒!」
ダホは信じられない、という表情をした。
「はああ、そりゃ大変だな。すげえな、お前は。大卒の女を転がしたのか。まあ男前だからなあ。美人か?」
「いろいろうるせえな。」
うっかりダホの話にのってしまったことを後悔した。
「邪魔になるからあっちへ行ってくれ。」
「悪い、そんなつもりじゃねえよ。そうか・・・勉強か・・・。」
ダホは焼酎をあおりながら、考え込むそぶりをみせた。ジョンスは妙にダホのことが気にかかった。
「何だよ。」
「お前、一人でやっててわかるか。」
「いや・・・。ダメだな。わからねえところが多くて困る。」
「じゃあ、俺が教えてやるよ。」
「お前が?」
目はやさしげだが、背が低くてくたびれた風情の50代のおやじのダホが勉強を教えるなんて、とても似合わなかった。
「お前、バカにしたな。ハハ、これでも大学出てるって言ったら驚くか?」
「え!」
「まあ、人生いろいろってことよ。俺が得意だったのは英語と世界史だな。数学もそれくらいならできると思うぞ。」
「ほんとかよ。」
「ああ。見せてみろ。」
ダホは急に真剣な顔つきで教科書を見た。英語の教科書を読むと、すらすらと訳し始めた。
ジョンスは驚きながらも、ダホに感謝した。
ダホは、それから気が向くとジョンスの勉強を見てやった。

棟梁に仕事を習うようになってから1ヶ月位たったある日、ユノンは夕食を作っているときに、急に吐き気を覚えた。その日は母が出かけていて一人で作っていたので、幸い誰にも知られることがなかったが、ユノンは不安になった。
そして次の日、現場の仕事を休んで、産婦人科に行った。
「3ヶ月に入っていますね。」
ユノンの家から1時間くらいかかる産婦人科医院の女性の医師がそう告げた。
ユノンは思わず自分の腹に手を置いた。そこに自分とジョンスの子どもが宿っている・・・。
驚いたが、すごく嬉しかった。ジョンスが一緒にいてくれるような気がした・・・。

家に帰り、一人部屋にいると、嬉しさが募ってきた。だが少し冷静に考えてみると、とても両親が喜ぶとは思えなかった。けれどユノンは産婦人科で聞いたときから、絶対に産もうと決意していた。

次の日から、ユノンは棟梁に頼んで、週2回程度の仕事量にしてもらった。もともとたいして仕事がないし、給料もそれくらいしか払えなかったので、棟梁は二つ返事だった。
日曜以外の残りの4日は、仕事やアパートを探し、両親に反対されても産んで育てられる環境を作るため奔走した。相変わらずつわりはあったが、幸い動けないほどひどくはなかった。両親になんとか隠しとおすため、おなかがあまり目立たないように体重制限に気を配った。最近は、妊娠中にたくさん食べることを奨励されず、体重は増やし過ぎないようにと医師に指導されており、ちょうど季節も冬に向かっていたので、たっぷりめのニットなどで腹部をごまかすことが出来た。
そして4ヶ月が過ぎた。

(続く)
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by yumi-omma | 2005-11-27 12:50 | 小説