空の蒼さと山の碧と
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皆様、長い間本当にありがとうございました。m(_ _)m  (このブログは閉鎖しています。)遊実
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運命の恋、不器用な愛 第11話
お読み下さる方は、恐れ入りますが↓を先にご覧の上、第1話からどうぞ。
「運命の恋、不器用な愛」をお読み下さる方へ



それから二人はジョンスのアパートに行き、少し片づけたあと買い物に出た。
ジョンスと二人で街を歩けることが嬉しく、ユノンははしゃいでいた。野菜ひとつ選ぶのにも嬉しそうな顔をするユノンが可愛らしく、ジョンスはいつまでも見つめていた。
両手にたくさんの荷物を持って行きと違う道を歩いていると、小さな公園のそばを通った。
「ねえ、少し寄っていかない?」
「公園へ?」
ユノンは走って公園に入り、ベンチに荷物を置くとブランコに座ってこぎ始めた。
ジョンスはあとを追って公園に入り、同じように荷物を置くとユノンの背を押した。
ユノンは空を見上げた。夏の空はどこまでも高く、青く澄んでいた。そろそろ夕方になる頃なのに、まだ夕闇は隠れていて、青い空に白い雲がわずかに浮かんでいた。
ユノンが空を見上げていると、ジョンスは強くユノンの背を押し、ブランコは高く上がった。その前にジョンスが回り込み、しゃがんで、ユノンのスカートの中を覗こうとした。
「やだ!もう!」
ユノンは笑って片手でスカートを押さえた。
「惜しい!」
ジョンスも笑った。その笑顔は今日の青空よりも爽やかだった。

二人は約1週間、ジョンスの家で過ごした。ジョンスはユノンをどこかに連れて行ってやりたいと思ったが、実は金がなかった。ジョンスはユノンの金を使うことは絶対に嫌がったから、ユノンは自分の金は一銭も使わなかった。
明日、ジョンスが発つという日、二人はソウル郊外の湖にやってきた。ジョンスのアパートはすでに引き払い、棟梁がくれた餞別から、1泊だけ二人で旅行することにした。
ホテルに荷物を置くと、早速二人は湖に出掛けた。湖畔を歩き、遊覧船に乗り、湖畔に連なっている屋台で軽い食事を取った。ユノンが持っている一番お気に入りの白いワンピースが、湖の青さと対比して美しかった。ジョンスがたくましい腕でボートを漕ぐ姿が、ユノンの胸に刻み込まれた。
二人はすべてを覚えていようとするかのように互いを見つめ続けた。
「ねえ、写真を撮りましょうよ。」
「写真は苦手なんだよ。」
ユノンが露天の写真屋を見つけた。
「お願い、私1枚もジョンスさんの写真を持っていないわ。1枚だけ、いいでしょ?」
「・・・ああ。」
ユノンはジョンスを引っぱるように写真屋に連れて行った。
「いらっしゃい。」
「1枚お願いね。」
「新婚さんですか?ご主人と一緒に撮るんですね?」
「・・・ええ。」
初めて夫婦のように見られ、嬉しさで言葉が詰まりそうになった。
ジョンスとユノンは湖を背景に並んで立った。
「ポーズはそれでいいんですか?お客様方は皆さん、いろんな格好をなさいますよ?」
「例えば?どんな風にしてますか?」
「腕を組んだり、肩を抱いたり、がんばる人は奥さんを抱き上げたりしてますね。」
「そうね・・・。」
ユノンが考え込む様子を見せると、ジョンスがユノンの服を引き、小声で言った。
「このままでいいよ。」
「じゃあ、こうしましょ?」
ユノンはジョンスの腕に自分の腕を絡ませ、耳元で囁いた。
「本当はおんぶしてほしいけど、それはやめておくわ。」
ジョンスは苦笑した。
「いいですか、ご主人も。」
「いいです。」
「お願いします!」
写真屋は、二人の写真を撮った。
「あの、2枚現像してもらえますか。」
「いいですよ。そうすると料金が5割り増しになりますが。」
「結構です。」
「じゃあ、30分後に出来ていますのでしばらくお待ち下さい。」
二人はしばらく湖畔を散歩し、写真を受け取りに行った。
「いかがですか。」
写真には、屈託のない笑顔を見せているユノンと、わずかに微笑んでいるジョンスが写っていた。
ユノンはその写真を抱きしめるようにして、ホテルへ持ち帰った。

夕食も風呂も済み、二人はベッドに並んで腰掛け、部屋の電気を暗くして窓の外を見つめていた。7階のその部屋からは湖が見渡せ、夜でも月の光に照らされ、湖の水がきらりと光っていた。
ジョンスはタバコを吸い終わると静かに言った。
「手紙は寄越さないでくれ。俺も出さない。電話は使えないところだ。仕事が終わって帰るまで全く連絡をとるつもりはない。」
「どうして・・・。」
「手紙を見ると、帰りたくなる。お前に会いたくなる。・・・俺は、この仕事を終わらせて、お前を迎えに行きたい。俺のわがままを許してくれ・・・。」
「・・・はい・・・。その代わり、今日の写真は持っていって下さい。」
「ああ。」
ユノンが一筋の涙を流すと、ジョンスは優しく抱きしめた。またほのかに花の香りがした。
「ずっと気になっていたんだ。この香りは何?」
「私が好きな香水。白薔薇をメインにした花の香りなの。時々つけていたわ。」
「名前は?」
「・・・トゥルー・ラブ」
「トゥルー・ラブ・・・。」
ジョンスはユノンの頬を大きな手のひらで優しく包み込み、唇を重ねた・・・。

翌朝、ジョンスとユノンはチェックアウトしたあと、湖畔のベンチに寄り添い、手をつないで座っていた。
「ジョンスさんを送りたいの。駅に一緒に行くわ。」
「ダメだ、お父様と約束したから、お前を家に送り届ける。」
「でも・・・。」
「わがまま言うなよ。」
「はい・・・。」
ユノンは自分の鞄の中を探り、小さな瓶を取り出した。
「これ、持っていってください。」
「何?」
「トゥルー・ラブ・・・。」
「ああ・・・。分かった。」
ユノンの精一杯の気持ちを汲んで、ジョンスは香水の入った小さな瓶を鞄の奥に入れた。
ジョンスは寂しそうなユノンの顔を見るのは辛かった。つないでいた手を引き、ユノンを促して立ち上がった。
ユノンの足はなかなか動かなかったが、ジョンスが優しく見つめる瞳を見て、ゆっくりと歩き出した。

ユノンの家の玄関を開くと、父と母が二人で立っていた。
「ただいま戻りました。」
「ありがとうございました。」
ユノンとジョンスはユノンの両親に頭を下げた。
「お帰りなさい。」
母は少し涙ぐんでいるようだった。ユノンが帰ってきて安心したかのようにユノンを家に上げようとした。
「お帰り、ユノン。」
父は複雑な表情をしていた。ユノンとジョンスの様子が痛々しかった。父はユノンの手を取ろうとする母を止めた。
「ユノン、家の前までジョンスを見送ってきなさい。私たちは中で待っているから。」
ユノンははっとして父を見上げた。
「ありがとうございます。」
ユノンとジョンスはまた礼をして玄関を出て行った。

玄関から門までの距離はとても短かった。数ヶ月前、ジョンスがユノンをおぶって歩いた道を、今は二人並んで反対方向に歩いていた。ユノンの足取りは重かった。ジョンスはユノンの手を引き、ゆっくりと歩いた。
門の手前まで来た。ユノンはジョンスの手を強く握った。
「ユノン、見送りありがとう。お父様とお母様にもう一度よろしくお伝えしてくれ。」
「はい・・・。」
ユノンは笑顔で見送ろうと思っていた。だがどうしても言葉に詰まり、頬も固まったように動かない。ほんの少しでもしゃべったり、顔を上げると泣き出しそうだった。
「どうした?」
「ううん、ごめんなさい。」
ジョンスはユノンを抱きしめた。ふわりと薔薇の香りがした。
「ああ、今日もつけたんだな。」
「ええ・・・。」
「必ず帰ってくる。ごめん・・・。」
「謝らないで・・・。」
「帰ったら結婚してくれ・・・。」
「はい・・・。」
ユノンの目から涙がこぼれた。その言葉を胸に抱いて、自分は耐えていけると思った。
どれくらいの時間が経ったのか、ジョンスはゆっくりとユノンから離れた。
「じゃあ。行ってくる。」
ジョンスはユノンに微笑んだ。
「行ってらっしゃい。」
ユノンはわずかに頬を上げ、微笑んだかと思った瞬間、涙がこぼれた。
ジョンスはその涙を拭かずに後ろを向き、歩き出した。
ユノンはジョンスの背中が見えなくなっても、ずっと立ちつくしていた。

ユノンは家に入ると、両親の前に行った。
「すみません、今日だけ一人にしてください。」
母が声を掛けようとするのを避けるかのようにユノンは2階の自分の部屋に上がった。
そして声を殺して泣いた。

(続く)
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by yumi-omma | 2005-11-25 13:05 | 小説