空の蒼さと山の碧と
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皆様、長い間本当にありがとうございました。m(_ _)m  (このブログは閉鎖しています。)遊実
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運命の恋、不器用な愛 第7話
お読み下さる方は、恐れ入りますが↓を先にご覧の上、第1話からどうぞ。
「運命の恋、不器用な愛」をお読み下さる方へ



ユノンはただ何も考えず、いや、ジョンスの姿だけを思い描いて走った。ジョンスの家も分からず、行きそうなところも分からない。診療所に行き、バーに行き、その周辺を探し回った。ジョンスが出てくるまで時間を潰したコンビニも覗いてみた。野球場にも行ってみたが、知らないチームが試合をしていた。またバーの付近に戻ってきて、思いつくところはすべて探した。だがどこにもジョンスはいなかった。ユノンは何時間も探し続けて、足が痛くなってきた。最後にもう一度、と診療所に寄ってみると、キム医師がまた来たか、という顔をした。
「ジョンスは来とらんよ。」
キム医師はユノンの方を一瞥し、また書類に向かった。
「あの・・・ジョンスさんの家か連絡先を教えてもらえませんか。」
「知らんな。」
「お医者様ならご存じのはずです。」
「知ってても言えると思うか。帰ってくれ。仕事の邪魔だ。」
取りつく島のないキム医師の態度に、ユノンは仕方なく帰ろうとした。
「お前さん・・・ジョンスに会ってどうする気だ。」
キム医師はユノンに背を向けたまま言った。ユノンは立ち止まった。
「・・・わかりません。」
「ふん・・・。」
キム医師はまた書類を書き始めた。
ユノンは静かに診療所を出た。

ユノンはパンプスで靴擦れした足を引き摺るようにバス停へ向かった。薄暗くなり始めていた。バス停に並ぼうと思った時、バス停の片隅に座り込んでいる男がいた。ジョンスだった。
「ジョンスさん!」
ユノンは駆け寄った。ジョンスは驚いて顔を上げた。
「ユノンさん・・・。」
ジョンスは呆然とした表情でユノンを見た。会いたさのあまり幻を見たのかと思った。
ユノンはジョンスの前に座り込んだ。フレアスカートがふわりと広がった。ユノンはジョンスの目を見つめた。
何かしゃべろうとしたが何も言葉にならず、ただ涙が流れた。ユノンは自分の瞳から流れでる涙に気づかないかのようにジョンスの瞳を見つめ続けた。
ジョンスの腕がゆっくりと伸びて、太い指がユノンの涙をそっと拭った。
ジョンスはたまらずにユノンを抱きしめた。ユノンもしがみつくようにジョンスの背中に腕を回した。
「会いたかったの・・・。」
ジョンスはユノンを離すと、ユノンの小さな唇に吸いついた。ユノンはその唇をわずかに開き、ジョンスに応えた。
周りががやがやと騒がしくなってきた。ジョンスとユノンの様子を見て、人だかりができそうだった。ジョンスはユノンを支えて立ち上がり、ユノンの肩を抱いて歩き始めた。ユノンは少し足を引き摺っていた。
「足、痛むのか。」
「大丈夫。」
ユノンは痛みをこらえ、歩いた。ジョンスは立ち止まり、ユノンの前に背中を差し出した。
「乗って。」
ユノンは何も言わずジョンスの背に乗った。3ヶ月ぶりのジョンスの背中は、広く懐かしかった。
ジョンスの首元に頬を寄せた。熱く灼けた肌に涙のあとが伝わった。
ジョンスはユノンが自分を探し続けた時間を思った。ユノンの息が首筋にかかる。このまま時間が止まればいいと思った。

ジョンスのアパートに着いた。
もう陽はとっぷりと暮れていた。暗い階段を上ると、手前がジョンスの部屋だった。ジョンスは中に入り、玄関でユノンを下ろした。
「入って。」
ユノンはジョンスのあとから部屋に入った。奥に簡易キッチン、手前にトイレがあるだけの狭い一間には、布団が一組隅に置かれ、段ボールに勉強道具が多少入っているくらいしか物がなかった。古めかしい桟の窓には薄汚れたカーテンが掛かっている。その向こうには繁華街のネオンが見え、客寄せの音楽や客引きの声が響いていた。
「ひどいところだろ。ユノンさんは入ったことないだろうな。」
ユノンは何も答えられなかった。何を言っても慰めにもならない。だがそんなことはどうでもよかった。ただジョンスと二人きりでいられることが信じられなかった。
ジョンスは湯を沸かすためにやかんに水を入れようとした。その背中に、ユノンが抱きついた。
「ジョンスさん、私・・・。」
ジョンスはやかんを置き、ユノンの方を振り向いた。
「俺を捜したのか・・・。」
「ええ・・・。」
ジョンスはユノンが自分を見つめる瞳が震えるほど愛しかった。激しくユノンを抱き寄せた。
「ごめん。」
「どうして謝るの。」
「俺に惚れたって何もいいことない。」
「どうしてそんなこと言うの。私、今まで生きてこられたのが嘘のようだわ。ジョンスさんのことを想っている気持ちだけが自分の中で信じられるの。」
「ごめんな・・・。」
ジョンスはユノンの唇に激しく吸いついた。ユノンも今までの想いをすべてぶつけるようにジョンスを求めた。
口づけをしながらユノンの頬をはさんでいたジョンスの手は、首筋から肩、二の腕を優しく滑らせ、ユノンの胸のふくらみに触れようとした瞬間、止まった。
ジョンスはユノンから離れた。
ユノンは一瞬なぜジョンスが離れたのか分からなかった。だがジョンスの手が不自然な位置から落ちていくのを見て、ユノンは震える手つきでブラウスのボタンを一つずつ外し始めた。
ユノンが3つめのボタンを外した時、ジョンスの大きな手のひらがユノンの手に重なった。
「いいんだ・・・。」
ユノンの顔が赤くなった。
ジョンスはユノンを優しく抱きしめた。少しはだけたユノンの胸元が、ジョンスの薄いシャツに直接触れ、ジョンスの体温が伝わった。
「分からないんだ・・・。」
「・・・え?」
「大事にしたいんだ。でもどうしたらいいのか分からないんだ・・・。」
ジョンスはユノンを強く抱きしめた。ジョンスの鼓動がユノンの耳に強く聞こえた。速く打ち続ける鼓動を聞いていると、ユノンは落ち着いてきた。
「私もあなたと・・・たいの。」
「え?」
ユノンはジョンスから少し離れるとブラウスのボタンをまた外し始めた。そして少し肩を動かすとシルクのブラウスはするりと肩から滑り落ち、ジョンスは激しく抱き寄せた・・・。

薄い布団の中で二人は寄り添い、ジョンスの右手はユノンの髪をなで、左手はユノンの手とつながれていた。
「もう帰らないとな・・・。」
ジョンスが壁の時計を見ると、いつの間にか9時を回っていた。ユノンが連絡もせずに帰宅するには遅すぎるくらいの時間だった。
「帰りたくない・・・。」
ユノンは帰るのが不安だった。またいつ二人で会えるのか分からなかった。それにこの瞬間が夢で、家に帰ったら夢から覚めてしまうような不安があった。
「送るから、家に帰った方がいい。」
ジョンスは引き止めたい気持ちを抑えて、ユノンを促した。

二人はユノンの家の前に来た。
「今度いつ会えるの・・・。」
ユノンが不安そうに言った。
「来週の日曜日、また図書館に行く。そこで会おう。」
ジョンスの部屋には電話が引いてなかった。二人が連絡を取る手段がなかった。
「うん・・・。」
また1週間も二人で会えないことに淋しさが募るユノンだったが、我慢するしかなかった。
「ジョンスさんが見えなくなるまでいる。」
「もう遅い。俺が見ているから家に入って。」
「うん・・・。」
返事をしたが、ユノンの足は動かなかった。ジョンスはユノンをそっと抱きしめた。
「心配しないで・・・。」
ジョンスの言葉が宙に浮いた。ただ気休めだということを互いに知っていながら、そう言わなければユノンはジョンスから離れられなかった。
ジョンスはユノンの肩を回し、家の方を向かせた。後ろから優しく抱いた。
「おやすみ。」
ジョンスはそっとユノンの背中を押した。ユノンが数歩歩いて振り返ると、ジョンスは愛しげにユノンに笑いかけた。ユノンは走って家に入った。その後ろ姿を、ジョンスはわずかにうるんだ瞳で見つめていた。

ユノンが家に入り、リビングへ行くと、父と母が怖い顔で座っていた。
「ユノンさん、ここにお座りなさい。」
母が厳しい声で言った。普段優しい声しか出さない母の声音に驚いたユノンは、二人の前に座った。
「今日はどこに行ってたんだ。」
父が母と同じように怖い顔で言った。
「図書館へ・・・。」
「図書館は夕方閉まるはずだ。こんな時間までどこに行ってたんだ。」
「・・・。」
「繁華街のバス停でお前を見たという人がいる。」
「・・・!」
ジョンスと二人でいたところがもう両親の耳に入るとは・・・。
突然母が泣き出した。
「お母さん、恥ずかしいわ!まさかユノンさんがそんなことをするなんて・・・。ハンガルさんのことをどう思っているの!あんな人と・・・。」
「お母様、あんな人って・・・!」
ユノンは母の言葉にジョンスに対する蔑みの色が含まれていたことが耐えられなかった。
「ユノン、お母さんの言うとおりだ。」
父は睨みつけるかのような目で言った。
「もうお前は子どもじゃない。好きならば誰と付き合ってもいい、というわけにはいかない。その男性と付き合うことは許さない。」
「お父様!」
「ユノンさん、分かって。ユノンさんの幸せを思って言っているの。あの方とユノンさんじゃ何もかもが違いすぎるわ。ハンガルさんならあなたを幸せにしてくださるわ。もう2度とあの方と会わないで。」
「お母様・・・。」
「分かったら部屋に行きなさい。」
父と母はそう言うと、自分たちの部屋に帰った。
ユノンの目から涙がこぼれた。ジョンスと過ごした数時間が夢のような気がした。
部屋に戻り、ベッドに横になったユノンはジョンスに愛された時間を思い出しつつも、両親にジョンスとのことを激しく拒絶されたことに心が苛まれ、いつまでも眠ることが出来なかった。

(続く)
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by yumi-omma | 2005-11-20 14:17 | 小説