空の蒼さと山の碧と
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皆様、長い間本当にありがとうございました。m(_ _)m  (このブログは閉鎖しています。)遊実
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運命の恋、不器用な愛 第2話(全15話)
第1話では予想以上の反響をいただき、感激しました。
これ以降もお楽しみ頂けると嬉しいのですが、ドキドキしています。(笑)
これはほぼ完成しているので、1,2日に1話のペースでUPし、1ヶ月以内には全話終わらせる予定です。

お読み下さる方は、恐れ入りますが↓を先にご覧の上、第1話からどうぞ。
「運命の恋、不器用な愛」をお読み下さる方へ



日曜日の昼、ユノンはハンガルに誘われて、ランチを食べ、映画を見に行った。ランチはイタリアンレストランで無難に済ませ、映画は古いフランス映画を見た。ユノンはあまり好みじゃなかったが、ハンガルは好きらしかった。夜まで一緒に過ごそうと誘ってきたハンガルを、ユノンは適当に濁して、帰ることにした。一人になりたい気分だったので、家まで送ると言うハンガルを止めた。家に帰るには早すぎる時間だったが、どこに行く当てもなく、ぼんやりとバスに乗り込んだ。
バス停を数カ所通り過ぎた頃、ユノンは窓からの景色がいつもと違うことに気づいた。よく見ると、バスを乗り間違えたらしい。慌ててボタンを押しバスを降りたら、川べりだった。何もそこで降りる必要はなく、終点まで行くかもう少し乗って繁華街で降りた方が帰りやすいのに、間違えたせいで慌てて降りてしまった。戻り方向のバス停の時間を確認すると、まだ1時間近くある。タクシーもあまり通らない場所で、仕方なくユノンはバス停近くの雑貨屋で飲み物を飲んでから、近くを散歩した。
土手から川に降りていくと、つりをしている人、犬の散歩をしている人などがいた。久しぶりに春らしく勢いよく雑草が生えている中を歩いていたユノンは、気持ちが晴れてきた。少し歩くと小さなグラウンドがあり、草野球をしている人たちが見えた。ユノンはそこまで歩いていった。
「ジョンス、回れ、回れ~~!」
大きな叫び声と歓声が聞こえた。
ユノンは思わず“ジョンス”と呼ばれた男の方を見た。するとあのジョンスだった。打者がちょうどヒットを打ったらしく、ジョンスが2塁から3塁を回ってホームへ帰ろうとする瞬間だった。
ジョンスはホームへ思いっきり滑り込んだ。
「セーフ!」
うわ~!と歓声がひときわ大きくなり、ジョンスの周りに人が集まってきた。そこで試合は終了、逆転勝ちのようだった。
ユノンはその場で立ちつくして見つめていた。ジョンスはチームメイトにもみくちゃにされながら、思いっきり笑っていた。ジョンスの輝くような笑顔を初めて見たユノンは、心臓がぎゅっと痛くなるような感動を覚えた。いつも寡黙な彼がチームメイトに押されたり肩を組んだりしながら笑い、心底楽しそうにしゃべっている・・・。ユノンはジョンスの笑顔から目が離せなかった。ジョンスはロンドンの先輩に似ているが、先輩とは似ても似つかないカラッとした笑い方をしていた。そして左頬にはくっきりとエクボが見えていた。

ジョンスたちは片づけて帰ろうとし、ユノンが立っている横を通り過ぎようとした時、ジョンスがユノンに気づいた。
「ユノンさん?」
「ジョンスさん・・・。」
「おい、ジョンス、知り合いか?」
「いや・・・。」
「いやってお前、今お名前呼んだじゃないか。おい、紹介しろよ。」
「お前にこんな美人の知り合いがいたのか?隠しやがって!」
チームメイトたちはジョンスをこづきながらからかった。
「ん・・・俺が今働いている現場の家のお嬢さんだ。」
「イ・ユノンです。」
「ユノンさん!きれいな人だなあ。俺たちはジョンスの友達っす。」
「おい、ジョンス、どうせならこの後ユノンさんにも来てもらえよ。」
「そうだよ、ユノンさん、今お暇ですか?」
「えっ、ええ。」
「ならこれから勝利祝いに街へ飲みに行くんすけど、一緒に行きましょう!」
「え、でも・・・。」
「いいじゃないですか。俺、ヨルっていいます。」
そう言って、ヨルはユノンの肩を抱くようにして強引に歩き出した。ユノンは初めて会った男にそんなふうにされて驚いたが、恥ずかしさで手をほどくことが出来ない。ふいに肩が軽くなった。
「おい、軽々しく手を置くな。」
ジョンスがヨルの腕をユノンの肩から下ろした。
「何だよ、お前の女でもあるまいし。」
「ユノンさん、すみません。」
「いえ、気になさらないで。」
「帰るならお送りします。」
「おい、ジョンス、お前がいなかったら祝いになんねえぞ。今日の主役じゃないか。」
「そうだよ。ユノンさん、こいつホームラン打ったんすよ。一緒に祝ってもらえませんか?」
「ええ。いいんですか、私が行っても。」
「もちろんですよ!ほら、ユノンさんも行くってよ!よし、行こうぜ!」
ユノンはジョンスの仲間たちに連れられて、汚いバンに乗って近くの居酒屋に行った。
うるさくて、汚くて、狭い居酒屋だったが、ジョンスたちの行きつけらしく、気のいい親父の店だった。
「乾杯!」
あちこちで盛大にグラスが上げられ、みんなで今日の勝利の祝いをした。メンバーたちは興奮して口々に試合のことを話している。それぞれの彼女も来ていて、楽しそうだったが、ジョンスは一人で座っていた。彼女がいない様子に、なぜかユノンはほっとした。ユノンはみんなが話しているのを聞き、ジョンスは3番打者でファーストを守っていること、最後の回もジョンスがヒットで出塁し、次の選手のヒットでジョンスがホームに戻り勝ったことなどが分かった。
「ユノンさん、つまんないっすか?」
ヨルが隣に来て話しかけてきた。ユノンがずっと黙って話を聞いていたのが気になったようだった。斜め向かいに座っていたジョンスがユノンとヨルを見た。
「いえ、面白いです。」
「遠慮しないでどんどん食って飲んで下さい。今日はおごりっすから。それにここの親父、顔はまずいけど、料理はうまいんで。」
「おい、ヨル、てめえのだけ唐辛子を10倍にすんぞ。」
親父のつっこみにみんなが笑った。
「ええ、おいしいです。」
「ユノンさんは野球お好きですか?」
「ええ。父が野球ファンでよく球場に連れて行かれましたわ。だから大体のルールは知っています。」
「じゃあよかった!今度ぜひ見に来て下さいよ。」
「そうですね。今度は試合を見たいです。」
「おっ、嬉しいなあ。どうぞどうぞ。」
ヨルは焼酎を勧めた。ユノンは飲めない方でもなかったが、慣れない席で飲みすぎは避けたかった。だが次々とヨルは勧めてくる。年上らしい男から勧められて断りづらいユノンは、1杯は飲んだが、2杯目は少し口をつけるだけで精一杯だった。
「おい、やめとけ。」
ジョンスがヨルがさらに注ごうとするのを止めた。
「なんだよ、お前ユノンさん、気になってるじゃねえか。」
ヨルは笑いながら席をどいた。ジョンスがヨルの座っていたところに座った。
「大丈夫ですか。すんません。」
「いえ・・・大丈夫です。」
ユノンは狭い座席の隣にジョンスが座り、緊張した。野球の後、シャワーも浴びずにそのまま繰り出した男たちの汗の匂いが充満する店内が少し苦しく感じていたユノンだったが、ジョンスの匂いがジョンスが座った時に漂ってくると、おぶわれた時を思い出し少し赤くなった。
「酔いましたか?」
「いえ・・・大丈夫です。」
同じことを繰り返して言ってしまうのが情けない。ユノンは前から気になっていたことを聞こうとした。
「ジョンスさん、多分ジョンスさんは私より年上だと思うんですけど、なぜいつも敬語なんですか?」
「それは・・・お嬢さんだし。」
「私があなたを雇っているわけじゃないです。もっと気楽に話して下さい。失礼ですけどお年は?」
「26歳です。」
「私より3歳も年上じゃないですか。タメ口で結構ですから。」
「いや・・・俺しゃべるのうまくないんで。」
「そうですか?お友達とは随分楽しそうに話してらっしゃるじゃないですか。」
ジョンスの自分に対する控えめなしゃべり方に好感を持っていたユノンだが、もっと打ち解けてしゃべってみたくなっていた。
「じゃあこれから敬語使わないでみて下さい。ね?」
「あ、ああ。」
「このチームはいつからやっているんですか?」
「2年前だ。」
「どういうお仲間?」
「院で・・・。いや学校で一緒だった。」
「高校?」
「・・・ああ。」
「どこ?」
「どこでもいいじゃないか。田舎だ。」
「なんで野球なの?サッカーとかテニスとかスキーとかバスケとかいろいろあるじゃない?」
「野球部だったんだよ。」
「そうなの!プロ野球はどのチームが好き?」
「おい、質問攻めだな。」
さすがのジョンスもユノンの立て続けの質問に答えているうちに、笑いがこみ上げてきた。
「あ、ごめんなさい、つい・・・。」
ユノンはジョンスが答えてくれるのが嬉しく、思わずしゃべりすぎたと思った。
「いや、いいんだ。俺のこと聞いて楽しい?」
「楽しいわ。うちでの仕事中はあまり話せなくて残念だったの。」
ユノンは思わず口を押さえた。自分がそんなふうに感じていたことに今気づいたのだった。
「俺もユノンさんと話してて楽しいよ。」
ジョンスは笑顔で言った。
ユノンは初めて自分に向けられたジョンスの笑顔に胸が締め付けられるような気がした。すごく、嬉しかった。

飲み会はいつまでも終わる気配がなかった。ユノンは時間が気になりだした。もう8時を過ぎている。家に着くのが9時を回ると母が心配するに決まっていた。
「すみません、お先に帰ります。」
「え?ユノンさん、もう?」
ヨルが驚いて止めようとしたが、ジョンスが立ち上がった。
「送るよ。」
ユノンはジョンスと店を出た。ユノンは店を出て右手に行こうとした。
「タクシー乗り場はこっちの方だけど。」
ジョンスは左手を指した。
「いえ、バス停に行きたいの。」
「バスか?タクシーじゃなく?」
「私、バスが好きなの。昔よく乗ってたから。今も使うわ。」
ジョンスはお金持ちのお嬢さんであるユノンがバスに乗るということに驚き、ユノンを見た。ユノンは最初会った時から自分の家がお金持ちであることを全く鼻にかけず、いつも自然体でいたことがわかりなぜか嬉しくなった。
「じゃあバスで家まで一緒に行くよ。あそこはバス停降りてから家まで暗いだろ。」
「・・・ありがとう。」
ユノンはジョンスと二人で過ごせる時間が嬉しく、素直に受けた。

ジョンスとユノンは狭いバスの座席で隣り合わせに座った。
「ごめん、汚いな、俺。」
今頃ジョンスはユノンのきれいなワンピースと自分のユニフォームが触れていることが気になった。
「ふふ、ジョンスさん、おかしい。」
「何で?」
「だって、さっきの居酒屋も狭かったし・・・。」
「あ、そうか。」
ふっとジョンスも笑った。ジョンスは膝の上できれいに揃えられているユノンの白い手を見た。細くて長くて白い指、華奢な手の甲を見ていると、自分の太い指や浅黒い手の甲が異様に見えた。
「きれいな手だな。」
「そんなことないわ。」
急に言われてユノンは驚いた。
「俺の手はきたねえな。」
「・・・美しいと思うわ。」
「え?」
「初めて会った時からあなたの手は素敵だと思ったわ。私よりもずっと太い指も、日焼けした肌も、しなやかに動く指先も・・・。」
「そんなふうに言われたのは初めてだ。」
ジョンスは手を握ったり開いたりしながら言った。手のひらを下に向けて自分の手を眺めていると、白いものが重なった。
「私の手よりこんなに大きいわ。」
ユノンの滑らかな手のひらがジョンスの手の甲に触れた。柔らかな感触に、ジョンスは思わず反対の手でユノンの手を握った。熱い手に力強くつかまれ、ユノンの心臓は激しく打った。だがその手をふりほどけなかった。

やがてユノンの家近くのバス停に着いた。ジョンスは手を離してバスを降り、ユノンも続いた。いつの間にか外は雨だった。バスを降りるとすぐに少し強い雨に打たれ、ジョンスはユニフォームの上着を脱ぎ、ユノンの頭の上にかざした。
「ジョンスさんが濡れるからいいわ。」
ユノンがジョンスの腕を下ろそうとしたが、ジョンスはそのまま歩くようにユノンを押した。
「それより早く家に入った方がいい。」
ジョンスはユノンが歩く速度に合わせて歩いた。ユノンは少しうつむいて早足で歩いたが、やや左後ろにいるジョンスの熱い息が感じられて、春の冷たい雨に打たれながらも、全身が熱くなっていた。
ユノンの家の前に着いた。家の前の街灯に照らされ、ユノンの淡いベージュのワンピースの胸元が肌に貼りつき、ジョンスの薄く白いランニングシャツが胸の盛り上がった筋肉にぴたりと貼りついているのがくっきりと見えた。ジョンスは目をそらし、ユノンは目を伏せた。
「ありがとうございました。気をつけて帰って下さい。皆さんによろしくお伝え下さい。」
「いや、こちらこそ付き合わせて悪かった。じゃあ。」
ジョンスはユノンに背を向けると、走り去った。ユノンは雨が降り続く中、ジョンスの姿が消えるまでそこに立ちつくしていた。

「ただいま。」
ユノンが家にはいると、母が駆け出してきた。
「ユノンさん、お帰りなさい。心配したわ。あら、傘を持ってなかったの?大変、そんなに濡れたら風邪を引きそうよ。すぐに入って。」
母はバスタオルを持ってきて、ユノンに渡し、熱いシャワーと着替えの準備をした。ユノンは母の言うとおりシャワーを浴び、部屋着に着替え、出された熱いミルクを飲んだ。
「ユノンさん、今日はどうしたの?ハンガルさんからお電話があったわ。あなた夕方帰ったと聞いたのに、なんでこんなに遅かったの?」
「ごめんなさい。ちょっとお買い物をしていたら遅くなって・・・。」
「お買い物って何も持っていないようだけれど・・・。」
「バスに忘れてしまったの。雨が降り出して焦っていたのかも知れないわ。明日にでも取りに行くわ。」
「そう。それならいいけれど。」
「お母様、少し疲れたからベッドに行くわね。」
「ええ。風邪を引かないように温かくして寝なさい。」
「お休みなさい。」

部屋に入ったユノンは、深く息をついた。母にウソをつくのは、高校生の時に内緒で友達とコンサートに行った時や、大学生の時、2,3度合コンをして遅くなった時くらいだった。その時はいつも友達と一緒だったが、今日は自分の意志で、自分のためだけのウソをついた。ユノンの心臓は激しく打ち続け、手のひらには汗がにじんでいた。
ジョンスの姿、ジョンスの笑顔が何度も思い出された。ジョンスが握った手は、まだ熱を持っているようだった。ジョンスの肌が、意外に滑らかだったこと、バス停から家までの間、何も語らなくても、ジョンスの熱い息が自分を守っているように感じたこと・・・。何もかもがユノンの中に深く刻まれた。

ジョンスはびしょぬれの姿で、繁華街の片隅にある、小さな古いアパートに来た。狭い部屋に入ると、窓際に敷かれた布団には、女が眠っていた。ジョンスは濡れたまま、女の顔を眺めていた。
少しすると、女が目を覚ました。
「ジョンス・・・。疲れているのにこっちに来てくれたの?早かったね。今日は勝った?」
女は起き出そうとした。
「ああ、勝った。ミギョン、起きなくていい。何か食ったか?」
「ううん、食べてない。・・・見たかったな、試合。」
ミギョンの瞳は熱を含んで潤んでいた。ジョンスがミギョンの額に手を当てると、かなり熱かった。
「まだ熱が高いな。何か作ってやるから食え。」
「ありがと。でもジョンスびしょぬれじゃない。先に着替えて・・・。」
「ああ。」
ジョンスは着替えて、ミギョンにおかゆを用意した。
ミギョンは体を起こし、おかゆを少し食べ、水を飲んだ。
「もう3年になる・・・。あまり無理するな。金のことはなんとかなるから。」
「ううん、気にしないで。私がしたいの。私がジョンスのためにしたいんだから。」
「あんな仕事、何年も続けたら体を壊すに決まっている。もうやめてくれ。」
「大丈夫よ、まだ私若いわよ。風俗って言っても、そんなに無理なことはさせられないし・・・。」
ミギョンはゴホッ、ゴホッと咳をした。
「分かったから・・・。もう少し寝ろ。」
「うん・・・。」
ミギョンはまた横になった。ジョンスはミギョンの額に濡らしたタオルを置いてやった。しばらくするとミギョンはまた寝息を立てた。
ジョンスはミギョンが眠ったあと、窓を少し開けてタバコを吸った。バスの中でユノンの手を思わず握ってしまったことを思い出した。ユノンのはにかんだような笑顔や、恥ずかしそうな表情、そして興味深そうに自分に質問する楽しげな表情・・・。ユノンのいろいろな顔と、柔らかな手の感触が生々しく甦った。

(続く)
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by yumi-omma | 2005-11-11 10:18 | 小説